1. はじめに ~なぜ今、パフォーマンスを深掘りするのか~
先日公開したASUS ExpertBook Ultraのレビュー記事では、デザインや携帯性、ディスプレイの見やすさといった「使い勝手」の部分を中心にお伝えしました。ですが、ビジネスパーソンやクリエイターの方が本機の購入を検討する際、最も気になるのはやはり「実際の処理性能はどうなのか」という点ではないでしょうか。
本機にはIntel Core Ultra X7 358Hと、統合グラフィックスとしては非常に強力なIntel Arc B390 GPUが組み合わされています。カタログスペックだけを見ても、それがどれほどのパフォーマンスを引き出すのかはイメージしづらいものです。
そこで今回は、実機で取得した各種ベンチマークの詳細データをもとに、ASUS ExpertBook Ultraの「本当の実力」を数値と実用シーンの両面から掘り下げていきます。オフィスワークはもちろん、動画編集や軽めのゲームプレイまで、どこまでこなせるデバイスなのかを一緒に見ていきましょう。
2. スペックから読み解くパフォーマンスのポテンシャル
ベンチマーク結果を見る前に、まずは今回のシステム構成がどのような技術的背景を持っているのかを整理しておきます。数値の意味をより深く理解する助けになるはずです。
CPU:Intel Core Ultra X7 358H
Core Ultraシリーズは、CPU・GPU・NPUを1つのパッケージに統合した最新世代のアーキテクチャを採用しているのが特徴です。特に358Hのような「H」シリーズは、モバイル向けでありながら高いTDP(熱設計電力)を許容する設計になっており、薄型ノートPCでもある程度のパワーを持続的に引き出せるよう設計されています。
これは後述するCinebenchのマルチスレッドスコアにも表れており、単発の瞬発力だけでなく、負荷の高い処理を一定時間続けられる「持久力」の面でも期待できる構成といえます。もちろん、この持久力を実際に発揮できるかどうかは、筐体側の排熱機構(ヒートパイプやファンの設計)に大きく左右される点も覚えておきたいところです。
GPU:Intel Arc B390
内蔵GPUでありながら「Arc」ブランドを冠している点からもわかる通り、単純な表示用グラフィックスではなく、軽めのゲーミングやGPUを使ったレンダリング処理にも対応できる性能を持っています。後ほどBlenderのベンチマーク結果でも触れますが、GPUレンダリングにおいて上位30%にランクインするスコアを記録しており、内蔵GPUとしてはかなり健闘している印象です。
メモリ構成
搭載されているメモリは64GBという大容量です。ベンチマークソフトによって64752MBや65536MBと表示にばらつきが見られますが、これはメモリ規格やOS側での認識方式による表記の違いであり、実質的にはほぼ同容量と考えて差し支えありません。PassMarkのMemory Markが4,196.4(99パーセンタイル)という非常に高い数値を記録していることからも、メモリ帯域の広さが数値としてしっかり裏付けられています。動画編集や複数の重量級アプリケーションを同時に扱う際、この余裕のあるメモリ容量と帯域は大きな武器になるでしょう。
ストレージ
搭載ドライブはUMIS製のAM6D0シリーズNVMe SSDです。PassMarkのDisk Markで63,470.4(99パーセンタイル)という高スコアを記録している一方、3DMarkのStorage Benchmarkでは帯域幅348.11 MB/s、アクセス時間の平均85μsという結果でした。両者のベンチマーク傾向がやや異なるのは、テスト内容がシーケンシャル性能寄りかランダムアクセス性能寄りかによる違いが影響していると考えられます。いずれにせよ、体感速度に直結するアクセス時間の短さは、OS起動やアプリの立ち上げの軽快さに直結するポイントです。
3. ベンチマーク結果の徹底解剖
ここからは実際のベンチマークスコアを、項目別に詳しく見ていきます。
CPU性能:3DMark CPU ProfileとCinebench
3DMarkのCPU Profileでは、スレッド数を変えながらスコアを計測しています。
- 最大スレッド:10,158 / 16スレッド:10,145
- 8スレッド:6,353 / 4スレッド:4,177
- 2スレッド:2,240 / 1スレッド:1,161
スレッド数を増やすごとにスコアが綺麗にスケールしており、マルチコアの並列処理性能がしっかり機能していることがわかります。特に16スレッドと最大スレッドのスコアがほぼ同水準である点は、コア数を使い切った時点で頭打ちになっていることを示しており、コア構成をきちんと使い切れる設計であると読み取れます。
Cinebench 2026.1.0では、マルチスレッド4,382pts、シングルスレッド507ptsという結果でした。MP Ratio(マルチ/シングルの倍率)は8.64倍で、これは「1コアあたりの処理能力を維持したまま、コア数分だけ性能が積み上がっている」ことを意味します。シングルスレッド性能はブラウジングやOfficeアプリのようなレスポンスの良さに直結し、マルチスレッド性能は動画エンコードや3Dレンダリングのような重量級タスクの完了時間を左右します。両方のバランスが取れているため、日常使いから専門的な作業まで幅広くこなせる素地があるといえるでしょう。
GPU性能:3DMarkシリーズとPassMark
3DMarkのグラフィックス系テストでは、以下のような結果が出ています。
- Fire Strike(フルHD相当):グラフィックススコア17,880(評価:極めて良好)
- Fire Strike Extreme(WQHD相当):グラフィックススコア7,418(評価:非常に良好)
- Steel Nomad Light:6,132(評価:非常に良好)、グラフィックステスト45.43 FPS
解像度が上がるにつれてスコアが下がっていく傾向は自然な現象ですが、Fire StrikeからFire Strike Extremeへの落差を見ると、内蔵GPUとしてはWQHD以上の高解像度・高負荷設定ではやや息切れしやすい傾向がうかがえます。フルHD解像度であれば十分快適に扱える性能水準ですが、より高精細な環境でゲームや3Dコンテンツを扱いたい場合は、設定を少し落とすことを意識すると良いでしょう。
PassMarkの3D Graphics Markは9,366.4で、パーセンタイルは52nd(中央値程度)という結果でした。CPUやメモリ、ストレージが90パーセンタイル台の高評価だったのに対し、GPU性能はあくまで「標準的な内蔵GPU相当」という立ち位置です。これは決して弱いという意味ではなく、モバイル向け統合型GPUとしては十分健闘しているものの、ゲーミング特化ノートのような専用GPU搭載機と比べると差があるという、あくまで相対的な評価と捉えるのが妥当です。
実ゲームタイトルでの検証
ベンチマークソフトの数値だけでなく、実際のゲームタイトルを使ったベンチマークも複数実施されています。
ストリートファイターシリーズを含む対戦格闘系のFPS重視タイトル:
StreetFighter6ベンチマークでは、HIGH・HIGHEST両設定でTOTAL SCORE 100/100(快適にプレイできます)という評価を獲得し、フレームレートも59FPS台で安定しています。60FPS張り付きが求められる対戦アクションゲームでも、フレーム落ちを気にせずプレイできる水準です。
MMORPG系タイトル:
ファイナルファンタジーXIV 黄金のレガシーベンチマークでは、標準品質13,254、高品質でも11,935という「とても快適」評価を獲得しました。人気の高いMMORPGを快適に楽しめる性能があることは、内蔵GPUとしては特筆すべき結果です。
より重いグラフィック負荷を要求するタイトル:
一方でFINAL FANTASY XV(標準品質8,038・快適/高品質5,315・やや快適)、Shadow of the Tomb Raider(平均115~117FPSながら最低画質・低解像度720pでの計測)、The Riftbreaker: Prologue(benchmark_intenseで平均35.33fps)といった、よりグラフィックス負荷の高いタイトルでは、設定や解像度を抑える必要が出てきます。特にThe Riftbreakerのような大量のオブジェクトを描画するリアルタイムストラテジー系では、GPU負荷とCPU負荷の両方が同時にかかるため、内蔵GPU構成ではフレームレートが伸び悩む傾向が見て取れます。
これらの結果から、ライトゲーミング~ミドル級のタイトルであれば快適、負荷の高い最新3Dタイトルではグラフィック設定を調整しながら遊ぶ、という現実的な線引きが見えてきます。
クリエイティブ用途:Blender・PCMark Digital Content Creation
GPUレンダリングを使うBlender Open Dataのベンチマークでは、Benchmark Score 1,358.53を記録し、ランクは「上位30%」という結果でした。内蔵GPUでありながら3Dレンダリング用途で上位に食い込んでいる点は、Intel Arcアーキテクチャの強みが表れていると言えるでしょう。ちょっとした3DCGモデリングやレンダリング作業であれば、実用に足る速度が期待できます。
PCMark 10のDigital Content Creationスコアも参考になります。通常版で13,160、Extended版で13,190とほぼ同水準ですが、内訳を見るとPhoto Editing Score(25,191/25,278)が突出して高く、写真編集用途との相性の良さがうかがえます。一方でVideo Editing Score(7,148/7,162)は他の項目に比べるとやや控えめな数値です。動画編集、特に高解像度・高フレームレート素材を扱う場合は、内蔵GPUのエンコード支援機能を活用しつつ、プロジェクト設定でプレビュー画質を調整するなどの工夫があるとより快適に作業できるでしょう。
日常のオフィスワーク:PCMark 10 Essentials・Productivity
PCMark 10(通常版)のEssentialsは10,150で、内訳はWeb Browsing Score 14,262、Video Conferencing Score 9,418、App Start-up Score 7,787という構成です。Web閲覧のスコアが特に高く、シングルスレッド性能の高さとストレージのアクセス速度の速さが、そのままブラウジング時の軽快さに反映されていると考えられます。
Productivityスコアは14,175(通常版)~21,629(Extended版)で、特にSpreadsheets Score(19,184/27,218)が高水準です。大規模な表計算やデータ集計を行う業務でも、ストレスなく作業を進められるポテンシャルがあります。
総合評価:PassMark RatingとPCMark 10総合スコア
最後に総合指標を見てみましょう。PassMark Rating(総合スコア)は10,397.8で95thパーセンタイルという極めて高い評価を獲得しています。CPU Mark(93rd)、Memory Mark(99th)、Disk Mark(99th)がいずれもトップクラスである一方、3D Graphics Mark(52nd)だけが中央値程度という構成が、このマシンの性格を端的に表しています。つまり「CPU・メモリ・ストレージは非常に高速だが、GPUは標準的な内蔵グラフィックスの範囲内」というバランスです。
PCMark 10総合スコアも通常版8,870、Extended版10,714と高水準で、特にビジネス用途を想定したExtended版のGamingスコア12,090(Graphics 17,274/Physics 29,189)からも、日常業務からある程度のゲーミングまで幅広くこなせる懐の深さが感じられます。
4. 総評 ~このデバイスが最も輝く用途とターゲット層~
一連のベンチマーク結果を総合すると、ASUS ExpertBook Ultraは「CPU・メモリ・ストレージの三拍子が揃った、処理速度に妥協のないビジネスノートPC」であるという輪郭がはっきり見えてきます。PassMarkで軒並み90パーセンタイル台後半のスコアを記録している点は、日々の業務における「待ち時間の少なさ」に直結する部分であり、地味ながら最も体感しやすい強みと言えるでしょう。
一方でGPU性能は内蔵グラフィックスとして十分健闘しているものの、専用GPU搭載機と肩を並べるレベルではありません。フルHD解像度でのライトゲーミングや、MMORPGのようなプレイスタイルであれば快適にこなせますが、最新の重量級3Dタイトルを高画質・高フレームレートで楽しみたい方には、設定の調整が前提となる場面も出てきます。
こうした特性から、本機が最も輝くのは次のようなユーザー層だと考えられます。
- 大量のデータや資料を扱うオフィスワーカー・営業職の方(高速なストレージとメモリ帯域が業務効率に直結)
- 写真編集やちょっとした3Dモデリングを行うクリエイター(Photo Editing性能とBlenderスコアの高さが強み)
- 休憩時間に軽めのゲームを楽しみたいビジネスパーソン(MMORPGや対戦格闘系タイトルは快適にプレイ可能)
逆に、最新AAAタイトルを高画質でプレイしたいヘビーゲーマーや、業務で本格的な4K動画編集を日常的に行うクリエイターには、専用GPUを搭載したモデルの検討をおすすめします。とはいえ、ビジネス用途をベースに据えつつ、クリエイティブワークや息抜きのゲームにも柔軟に対応できるオールラウンダーとして、ASUS ExpertBook Ultraは非常にバランスの取れた一台だと言えるでしょう。
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